アメリカの小・中学校教育の特徴

英語学習

日本の学校教育は受験のためで全然実践的じゃないし、つめ込み教育で思考力が身につかない。

そんなことがよく言われています。

では例えばアメリカの小・中学校ではどのような教育がされているのでしょうか?

そしてその結果、社会にどのような違いをもたらしているのでしょうか?

ホームルーム

アメリカの小学校の朝のホームルームで必ず行われることがあります。

それが忠誠の誓い The Pledge of Allegiance です。

クラスの全員が教室で掲揚されている星条旗に向かって、胸に手を当て忠誠の誓いを唱和します。

実際に唱和する際の区切りで改行します。

I pledge allegiance

to the flag

of the United States of America

and to the Republic

for which it stands.

One nation

under God,

indivisible,

with Liberty and Justice for all

毎朝必ず唱和するため、歌のように今でもすらすら言えます。

なんて言ってるの?

実際私も英語を理解する前から唱和しているため、正直最初は意味も分かっていませんでした。

I pledge allegiance

私は忠誠を誓います

to the flag

星条旗に

of the United States of America

アメリカ合衆国の

and to the Republic

そして共和国の

for which it stands.

象徴の

One nation

一つの国として

under God,

神のもとで

indivisible,

分断されない

with Liberty and Justice for all

自由と正義をみんなに

といったところでしょうか。

一般的な訳は以下です。

私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います。

何でこんなこと毎朝唱和するの?

アメリカは言わずと知れた、人種のsalad bowlです。

アメリカ人でもそれぞれ人種のバックグラウンドが異なります。

日本のように共通の常識のようなものは存在しません。

人種や宗教が違えば基本的に考え方が全く違います。

そんな背景が違う人たちが一体感を感じられるのが星条旗なのです。

こうした教育を一時でもアメリカで体験した私にとって、今のアメリカの分断は非常に残念です。

ESL

日本で日本語が出来ない児童は、障害があるのかが判断できないため、特別支援学級に在籍していることも少なくないというニュースを目にしました。

おそらく制度も人手も不十分な中で、現場も試行錯誤した結果このような形になっているのだと思います。

しかし私は自分が英語が話せない状態でアメリカの小学3年生に転入した経験がありますので、特別支援学級に通う日本語を第一言語としてない児童たちが他人事のようには思えません。

もし自分が英語が出来ないという理由で、特別支援学級に入っていたらどうなっていたか。

おそらく人格そのものが変わっていたと思います。

もちろん特別支援学級やそこに通う生徒に、ネガティブなイメージを持っているわけではありません。

ただ、自分は学校の授業についていくのに、支援が必要だと自覚することが、当時の自分に受け入れられたかを考えると自信がありません。

特別支援学級としても、日本語が出来ないという理由だけで生徒が送り込まれると、ただでさえ人手が足りない中で、本当に支援が必要な生徒に十分なフォローが出来ているのでしょうか?

日本が外国人の受け入れについて、まだまだ発展途上であると実感させられたニュースでした。

その点アメリカでは、どのように英語を話せない生徒をフォローしているのでしょうか?

アメリカの小・中学校ではESLというクラスがあります。

ESLとは

ESLとはEnglish as Second Languageのことで、母国語でない第2言語として英語教育を受ける生徒を支援するクラスです。

ELL(English Language Learner)とも言うそうです。

  • English as Second Language (英語が第2言語)
  • English Language Learner (英語学習者)

いずれの名称も、よく人格に配慮されているように感じます。

アメリカの公立小学校にはESLが設置されていることが多いですが、地域によっては設置されていない学校もあるのでもし転勤する可能性がある方は事前に調べておきましょう。

ESLは1日中ほかの生徒と違う教室で勉強するのではなく、1日の間で1時間程度、通常の授業を抜けて参加するものでした。

ESLのいいところ

私が住んでいた地域はニューヨーク州の郊外で、マンハッタンから電車で40分ほど地域でした。

ユダヤ系の人の裕福な人も多く、治安も非常に良かったです。

過去50年間、拳銃にかかわる事件が発生していない地域だそうです。

ESLのクラスメイトも日本人が多かったですが、ペルー人韓国人もいました。

最初のテストと先生との面接でクラス分けされ、その後も定期的なテストの点数に応じてクラスが変わります。

そしてテストの点数でESLが不要と判断されると卒業します。

早い子で2年くらい、長くても5年ほどで卒業できます。

ESLのいいところは、常に自分と同レベルの英語能力の生徒たちと学習できるため、授業に遅れることもありません。

また、先生ひとりに対し生徒3名くらいの少人数制なので、よく見てくれているという実感を持ちました。

そして何より、1日のうちほとんどが通常の授業が受けられるので、アメリカの教育もしっかりと経験できました。

日本人は最初は英語こそ出来ないものの、数学は日本の小学校教育のほうが進んでいます

そのため、英語が多少下手でも、自分の得意なことをしっかりと周りに理解してもらえる環境があります。

アメリカの小学校においてESLというクラスで学べたことに大変満足しています。

【特別授業】アメリカの薬物乱用防止授業”D.A.R.E”

アメリカは世界で一番囚人の多い国です。

世界の囚人の4人に1人がアメリカで投獄されています。

アメリカにとっては深刻な問題です。

では実際にどのような犯罪が多く、どのような対策が取られているのでしょうか?

本日は特徴的な教育プログラムであるD.A.R.E.を紹介したいと思います。

囚人が多い国ランキング

  1. アメリカ 2,121,600人
  2. 中国 1,710,000人
  3. ブラジル 773,151人
  4. ロシア 511,030人
  5. インド 466,084人
  6. タイ 375,148人
  7. トルコ 286,000人
  8. イラン 240,000人
  9. フィリピン 215,000人
  10. インドネシア 210,693人
  11. メキシコ 198,384人
  12. 南アフリカ 154,437人
  13. ベトナム 123,697人

2020年のデータとなります。

人口が多い国が上位ですが、やはりアメリカは際立っています。

犯罪内訳

それではどのような犯罪が多いのでしょうか?

ちょうど2021年6月のデータがありましたのでご紹介すると

  1. 薬物犯罪 46.3%
  2. 銃犯罪 20.5%
  3. 性犯罪 11.2%
  4. 窃盗・強盗 5.0%
  5. 詐欺 5.0%
  6. 不法入国 4.3%
  7. 殺人・誘拐 3.2%

のような内訳となっています。

ご覧の通り圧倒的に薬物犯罪が多いです。

防ぐための教育

アメリカでは5~6年生になるとD.A.R.E.という授業が始まります。

D.A.R.EはDrug Abuse Resistance Educationの頭文字で「デア」と読みます。

直訳すると「薬物乱用防止教育」です。

日本で言うと保健に含まれるでしょうか。

私はニューヨークの郊外で小学生・中学生と過ごしましたが、通っていた学校では、性教育もDAREでありました。

授業の頻度としては、週に1回程度でした。

ロゴも黒い背景に赤文字でD.A.R.Eとインパクト抜群です。Tシャツも配られ、日本の古着屋でもたまに見かけます。

どんな授業?

D.A.R.Eは1980年代に、未成年の間でドラッグが広まったことを受け、ロサンゼルスで始まり全米に広がりました。

警察と教育者が協力し、ドラッグやアルコールの知識を生徒たちに伝えることで、生徒自らドラッグをすることがどのような影響があるかを理解し、手を染めないよう自ら判断する。また、しっかりと断るスキルを身に付けるのがプログラムの趣旨です。

実際に警察が学校で授業を行ったり、生徒とコミュニケーションをとりながら、ドラッグ依存症アルコール中毒の人の生活の悲惨さを実体験から教わります。

また、友人に勧められた場合の対処方法など、実践的なロールプレイも行います。

D.A.R.Eの合言葉は

“Say No to Drugs”です。

Peer Pressure

プログラムの中で特に時間をかけるのが、どのようにpeer pressureに打ち勝つかです。

peer pressure は日本語だと「同調圧力」です。日本人の社会で蔓延する同調圧力ですが、何も日本だけではないのです。

アメリカ人ははっきりと自分の意見を言う。というステレオタイプがありますし、確かにそういうところもあるのですが、やはり人間は周囲の反応を気にしながら生きています。犯罪の中でも薬物によるものが突出していますが、これはpeer pressure が負の連鎖を生んでいるというのが、D.A.R.Eの考え方です。

そのため、どのようにドラッグに近づかないかではなく、身近にあったとしても、自分が手を出さない強い心を育てることに注力しているのです。

生物

アメリカの小中学校教育においてまずプロジェクトの多さに驚くでしょう。

中学校の生物の授業では、日本同様に動物細胞、植物細胞の授業があります。

一通り細胞の名前と役割を覚えて、動物細胞と植物細胞の違いを学ぶ。

日本ではそのように習った経験があります。

アメリカもここまでは同じです。

しかしおそらく日本ではここで小テストが行われると思いますが、

アメリカではここからプロジェクトが始まります。

お題は…

1か月後に動物細胞か植物細胞の模型を作ってきて発表する。作り方は自由!

というものでした。

こうしたお題を出された生徒はそれぞれ考えて取り組みます。

  • 適当にスケッチしてくる生徒
  • 発泡スチロールで詳細に表現する生徒
  • いろいろな形のパスタを使用して細胞を表現する生徒
  • ゼリーとケーキとクッキーで動物細胞を作ってきて当日みんなにふるまう生徒

など様々です。

いいか悪いかは別として今でも各細胞の部位は頭に残っています。

地理

地理というか地層ですが、

THE DIGという授業がありました。

直訳すると

ザ 掘る です。

内容は学校の中庭の畑を掘るというものでした。

しかしもちろん仕掛けがあります。

畑には先生があらかじめいろいろな物体を埋めているのです。

生徒たちはグループに分けられて区画化された畑をどんどん採掘していきます。

それぞれの区画は異なる時代に見立ててあります。

生徒たちは出土した物体から、いつのどこの地層かを発表するというものでした。

  • 白亜紀の恐竜の骨
  • ランタンや牛の頭蓋骨
  • 中世の食器

こんなものを採掘し、そのあとはいろいろな文献を見て各自いつの時代のものか発表します。

物理

中学校3年の中での最大のプロジェクト。

それがScience Fair です。

簡単に言うと自由研究ですが2か月ほどの時間をかけてかなり本格的に準備します。

研究のテーマは自分で決めて、自分なりの方法で検証し、パネルボードにまとめ発表します。

ペットボトルロケットを作って飛ばしたりは定番ですが、市販のボンドの性能比較や、テニスボールの温度が飛距離にどのような影響を及ぼすかなどテーマは様々です。

一見全くの自由に見えますが、

問題発見⇒仮説を立る⇒仮説を検証する⇒結論付ける⇒発表する

こうした考え方はしっかりと教え込まれます。

日本とアメリカの違い

よくアメリカのほうが自由な教育で、日本は詰め込み教育だと言われています。

確かにそういう側面もあり、一つ一つの授業は先生の授業をひたすら聞くのではなく、インタラクティブです。

先生が質問すると、クラスの半分以上は手が上がり、机をたたいて「自分を当ててくれ!」と猛アピールします。

もちろん全員正解するわけではありません。

しかし正解しなかったところで、誰も気にしません。

変な回答をするといじったりもしますが、すぐに忘れます。

よって、安心して間違えられるというわけです。

日本では間違えたらどうしよう…と手を挙げる生徒は少数派なのではないのでしょうか?

仮に小学校低学年は活発でも、いつの間にか高学年になると周りに合わせて自己主張をしなくなりませんか?

この大きな違いは、教育の仕組みの違いだと思います。

例えば、アメリカの数学の授業は同じ学年でも成績に合わせて3段階に分けられます。

私の場合ESLに通いながら、数学は最も上のクラスでした。

また、スポーツも年間を通して同じスポーツをするのではなく、春は野球秋はアメフト冬はバスケとクラブ活動がシーズンで変わります。

なにかができなくても、ほかのことで活躍できるチャンスがあるため、失敗を恐れずチャレンジ出来るのだと思います。

その点で日本は一回失敗すると、レッテルを貼られ、挽回するのが難しい仕組みのように感じます。

日本語が不自由で特別支援学級に在籍している生徒たちが、通常のクラスの生徒よりも得意なことを、十分に発揮するチャンスがあるのかどうか。考えてしまいます。

まとめ

授業は全体的にプロジェクトや実験が多かった印象です。

黒板のノートをとるというのもありますが、映像も多く授業に用いられ、暗記系の授業はほとんどありませんでした。

それぞれ共通しているのは、

基礎学習と自由な発想をうまく組み合わせている点と、生徒の個性を尊重している点だと思います。

シリコンバレーをはじめとするアメリカの企業の強さはこうした幼少期からの自由な教育も大きく影響していると思います。

一方でやらない子はまったくやらないため、格差は大きく開きます。

この格差は社会に出た時の収入の格差にもつながるため、アメリカの教育がすべて正しいとは限りません。

全員がある程度の学力を身に着けられる日本の教育のおかげで、社会が下支えされている側面もあります。

それぞれの良いところを知ったうえで自分や子供がどのような学習をし、どのような進路を歩むかが大切だと思います。

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